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クルド人国家誕生?

クルド人は独自の国家を持たない世界最大の民族集団と云われている。トルコ・イラク北部・イランの北西部・シリア北東部等に住む民族で、その人口は2500~3000万程と推定される。

中東ではアラブ人、トルコ人、イラン人の次ぎに多い集団で、宗教は、その大半がイスラム教。もとはオスマン帝国領内に住んだが、第一次大戦後、オスマン帝国が敗れ、サイクス・ピコ協定で、フランスとイギリスに依って引かれた国境線のためにチリジリとなり放浪民族化した。

20世紀後半、トルコ、イラクを中心にクルド人独立運動が高まりを見せると両国は「クルド民族」の存在を認めず、徹底的に弾圧する政策を開始した。

80年代、クルドはイランの援助のもとイラクを攻撃したため、サダム・フセインによる徹底的弾圧と化学兵器により大量虐殺の憂き目をみた。

イラクの敗戦により、多国籍軍がクルド人居住地区を飛行禁止地区にして以来クルド人自治区がイラク国内に誕生した。

トルコは最近、イラク国境を越えてクルド自治区への攻撃を認める法案を可決したが、アメリカはそれに反応、トルコに対して、越境攻撃反対の圧力をかけ始めている。 

クルドのマスード・バルザニ大統領が去る4月、アメリカのオバマ、バイデン正副大統領を訪問した頃より、クルド人自治区の存在が高まりを見せ、5月にバルザニ氏がトルコを訪問した時には、国賓並みの待遇で迎えられ、トルコはクルド人自治区から直接に石油を輸入するため、何十年もの間、休眠状態にあったパイプラインを使用することを提案、クルド自治政府はそれを了承したと云われる。

タラバニ・イラク大統領自身クルド人と云われ、 バルザニ氏も祖父の代からの怨念を捨て、今はただ力を蓄えるときと自認、タラバニ大統領も「今は山岳ゲリラの時代ではない」と発言、急に周辺の諸国に融和の風が吹き始めている。

2003年のイラク戦争後、クルドはアメリカ軍、特にCIAの頼れる同盟者となった。

それ以後、クルドは飛躍的に戦闘能力を伸ばし、現在では兵員20万が重火器、装甲車両で武装している。

前触れが少し長くなったが、一体、何がクルド人自治区周辺で起きているかと云えば、それは石油の存在である。

これには前述のトルコ向けの石油パイプラインがその切り札で、このまま進めば数年内にリビアを凌ぐような大産油国に変貌をとげると云われる。

イラク政府の反対を押し切ってトルコとの石油交渉を強行するクルド自治政府の行動には、イラクのマリキ首相もただ手をこまねいてこれを黙認を続ける筈もないが、クルド側は外資系の中でも冒険心の旺盛な中堅石油企業に働きかけ、資源管理を進めようとしている。

その中にあって、独立系のヘリテージ・オイルのトニー・バッキンハムCEOなどは危険すぎてメジャーも手を出さないような紛争地域での開発を地盤に伸びてきた企業で、アフリカでの傭兵ビジネスにも手を染め、この度、イラクの国力低下にしたがってクルド自治区での石油採掘チャンスの到来を見越して接近してきた。

クルド人自治区の石油の採掘は日量30万バレル程だが、来年になれば50万、2019年までに200万バレルに達すると予想される。

この地域には、今迄、エレベーター付きのビルは見られなかったが、現在では猛烈な建設ラッシュが起こっていると伝えられ、エルビル、スレイマニア両県の国際空港にはヨーロッパ、中東の有力航空会社が直行便を飛ばし、空港で査証(ビザ)が発給されている特殊な場所となっている。

トルコ、イラン、イラク、シリアに散らばって住むクルドの人口は3000万を超え、各支配民族は次第に現実味を帯びてきた「クルド人国家」の出現に畏怖の念を抱いている。

イラクに制裁を加えて分裂状態にした責任はアメリカにあり、それにつれて台頭してきたのが、クルド自治政府である。

また、イラクを連邦制にして、クルド語をアラビア語と並ぶ公用語にしたため、自治政府が力をつけたと云われる。

弱体化したイラクにしても、今やクルド自治政府を意のままに出来ない状態、トルコとの間で協定が結ばれて石油がイラク国境を超え、輸出が始まるとなれば国を持たない世界最大の民族による「クルド民族国家」への変身が実現する可能性はリアリティーを持つようになる。

(資料:月刊誌「選択」7月号、他)

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